数本の短編とジャン=マヌエル・フェルナンデスとの共同監督作品『Eyes Find Eyes』(11)を経て『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』で長編監督デビューを飾ったショーン・プライス・ウィリアムズは、インディペンデント映画界を代表する撮影監督として、20年を超えるキャリアを築いてきた。その間に撮影した長編映画は約60本。さらに50本の短編と7本のシリーズもの、数本のミュージックビデオという驚異的な仕事量を誇っている。最新作は現在公開中の『セカンドステップ 僕らの人生第2章』(24年12月20日 日本公開)や、12月に配信されたBLACKPINK ロゼのミュージックビデオ「toxic till the end」(24)などを手掛けている。
ウィリアムズは1977年生まれ。アメリカ東部のデラウェア州ウィルミントンで生まれ育ち、ウィルミントンの近郊は本作の主要な舞台にもなっている。父親は整備工、母親も工場で働く堅実な労働者家庭だった。ボルチモア郡メリーランド州立大学に通いながら独学で映画撮影を学んでいたが、大学をドロップアウトしてニューヨークを目指した。
筋金入りの映画マニアとして、ウィリアムズはマンハッタンの伝説的なKim’s Video の店員となる。Kim’s Videoは韓国系移民のキム・ヨングァンが1987年に始めたレンタルビデオストアで、激レアな映画の海賊版も取り揃えたマニアックなセレクションで好事家や映画監督志望の若者たちの人気を集めた。『バートン・フィンク』(91)や『ノーカントリー』(07)のコーエン兄弟は、いまだに600ドルの延滞金を払わずじまいだという。
ウィリアムズ以外にも、『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(09)、『ジョーカー』(19)で知られるトッド・フィリップスや、ほとんどの監督作でウィリアムズとコラボしているアレックス・ロス・ペリーら映像作家の卵たち、アンドリューW.K.やザ・ストロークスのアルバート・ハモンドJr.といったミュージシャンもKim’s Videoで働いていた。映画評論家で本作の脚本も手掛けたニック・ピンカートンも店員だったが、ウィリアムズとは別店舗に勤務していて、当時は面識はなかったという。
詳細がよくわからないのだが、ウィリアムズはKim’s Videoをクビになっても出勤し続け、働くことをやめず、最終的には強制的につまみ出されたというから、相当にクセの強い人物であることは間違いなさそうだ。
ウィリアムズはKim’s Videoの盟友であるアレックス・ロス・ペリーの監督デビュー作『Impolex』(09)などで撮影監督を務めるようになり、やがて低予算の独立系映画の界隈で引っ張りだこの存在となっていく。ペリーとは『彼女のいた日々』(17)、『ハー・スメル』(18)などほぼすべての長編映画でコンビを組んでおり、ペリーは本作にプロデューサーとしても名を連ねている。
『アンカット・ダイヤモンド』(19)など気鋭の映画作家として注目されているジョシュアとベニーのサフディ兄弟とも交流があり、『神様なんかくそくらえ』(14)、『グッド・タイム』(17)で撮影監督を務め、まるで即興演奏のように自由な映像センスで高い評価を得た。
劇映画だけでなくドキュメンタリー映画も手掛けるウィリアムズは、師匠的な存在としてドキュメンタリー界の巨人、メイズルス兄弟の兄アルバート・メイズルスを挙げている。メイズルスの『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』(16)や2011年にテレビ放送された『ポール・マッカートニー THE LOVE WE MAKE 9.11からコンサート・フォー・ニューヨーク・シティへの軌跡』にもカメラマンとして参加し、彼のアーキビストも務めた。
また日本との関わりでは、遠藤麻衣子監督の『KUICHISAN』(11)の撮影監督として沖縄を、同監督の『TOKYO TELEPATH 2020』(20)で東京を訪れている。(遠藤麻衣子監督は本作へ楽曲提供している)また第19回トライベッカ映画祭で審査員特別賞に輝いた福永壮志監督の『アイヌモシリ』(20)でも撮影監督を務め、現代の北海道の姿をカメラに収めた。
仕事を選ぶ際には、低予算はものともせず、監督との個人的なつながりや新人を応援することを優先しており、事前に脚本を読むことはほとんどない。あえてハリウッドに背を向け、全米撮影監督協会にも加盟せず、自分の流儀を貫くことにこだわり続けているのだ。
変わり種の業績として、ウィリアムズは長年にわたって映画の啓蒙活動を続けている。2000年代から独自の基準で重要な映画1000本を厳選し、半年ごとにラインナップを精査して入れ替えを行い、知人友人に配布してきたのだ。ウィリアムズのリストは、俳優のクリスティン・スチュワートやジェイソン・シュワルツマンもファンだという。その20年に渡る活動をまとめた最新版が、NYのアートシアターMETROGRAPHから書籍「SEAN PRICE WILLIAMS’S 1000 MOVIES」として2023年に出版されたばかり。撮影監督、映画作家としてだけでなく、NYインディーズ界の顔役として、ウィリアムズの地位は揺るぎそうにない。本作にレイ叔父さん役で出演も果たしている。